ヲタク弁理士の推し活日記 season2 最終回

2019年9月11日
秋葉原で最も駅近のメイドカフェ、The Granvania(GV) の閉店が発表される。
7月に十周年を迎えた、秋葉原メイドカフェとして老舗に名を連ねる名店の閉店告知だった。

まったくの予想外かと言えばそうでもない。
店内設備の不具合をなんとか間に合わせながら、だましだましの営業が続いていたさなかの閉店告知、常連にとってはさもありなん、である。

そんな中、ヲタク弁理士CIV弁理士会の会合で虎ノ門にいた。
会合後は秋葉にくり出し、GVに足を運ぶのが常。
しかしその日、GVを訪れるCIVの足は重かった。

その陰鬱な気持ちを引きずったままGVを後にしたCIVは新橋へ。
昼のGVに対し、夜の店が新橋にあった。
7月のGV十周年の後も仲間とともに訪れた場所である。

そこに、いつも通り一人で向かった。

GV十周年の折り、連れの唄う『お願いマッスル』に小気味よい合いの手を入れていたMOBが目の前に座る。

GVの系列店が神田にあるらしい
等という会話を店のマスターも交えて交わす。
行ってみたいけど、完全なキャバクラらしいんだよなぁ、、、
等という出口のない会話の末、CIVは新橋を後にして神田に向かったのだった。

そこでの出来事はまた別の物語。

2020年2月にGV改めSeven Seasとしてリニューアルオープンを果たすも、コロナ禍という未曾有の自体の前にはひとたまりもなくそれも終了。
CIVの推し活日記 1st Season は終焉を迎える。

それから3年の月日が流れる。
GV閉店が発表されたその日に、新橋で眼の前に座ったMOBがいつしか推しであることに気付いたCIVは、GVの時よりも素直に、まっすぐに振る舞っていた。
アレほど素直に、無責任に、無邪気に人に対して好意を伝えたことが人生のうちどれ程あったであろうか。
誰の目にも「推し活」と映るほどの推し活はむしろ初めてだったのかもしれない。

コロナ禍が一応解消された後、夜の店としての性質を強めていくその場で、次第にCIVは居場所をなくし始めていく。
その推しの笑顔、嘘のないその表情の中にCIVの居場所があった。

そんな推し活が終わりを迎える。

その間、人生の居場所を求めて奈良は生駒への移住計画を立て、仮住まいを経て遂に終の棲家へ移り住む、その直前の卒業発表であった。

人は一人である。
生涯の伴侶でさえ、「一人じゃない」と言えるのは、お互いが生きている間のみでしかない。

「一人じゃない」と思えるのは、自分の心の中を誰かが通り過ぎる、ほんのわずかの間だけだ。

GVでの推し活を失うことが最初に発表されたその日に関東での居場所に虚無を感じてから、真の人生の「居場所」にたどり着くまでの間、CIVが人生に彷徨う間、CIVを照らし、CIVの心を通り過ぎた「推し」がいた。
その推しはMOBとしてCIVの人生に現れた。
いつしか、CIVはMOBが推しであることに気付いた。

4年と少し、
コロナ禍という未曾有の停滞期間を加味すればもっと短いだろうか。
そんな短い間、
紅茶を飲み干すまでの間、
パンが焼けるまでの間、
そんかわずかな間の物語。